そもそも出生前診断とはどのような検査なのでしょうか
出生前診断は胎児に何かしらの異常が発生していないかを調べる検査です。
広義で捉えると妊婦検診も出生前診断と言えますが、一般的には下表に示す通り疾患がある可能性を調べる「非確定検査」、疾患があるかどうかを調べる「確定検査」に分かれます。
対象となる主な疾患はダウン症(トリソミー21)などの一部の染色体疾患に限られます。「自閉症の可能性は調べられますか?」など、他の疾患が調べられるかという問い合わせをたまにいただきますが、全ての疾患について調べられるわけではないことを理解しておきましょう。
参考までに:新生児の3%~5%には何かしら疾患があると言われており、身体的な特徴、例えば指が長いといったものも含まれます。先天性疾患のうち大体25%が染色体疾患で、更にそのうちの75%が主要3トリソミー(トリソミー21,トリソミー18,トリソミー13)で占められています。
有用性の高いNIPT
出生前診断の中で、受検する妊婦さんが増えているのがNIPT(新型出生前診断)です。それにはNIPTの持つ特徴が関係しています。
①感度・特異度の高さ
同じ非確定検査の中でも、コンバインド検査、クアトロテストはトリソミー21で80%台の感度ですから、圧倒的に精度が高いことが分かります。
感度 | 特異度 | |
トリソミー21 (ダウン症) | 99.9% | 99.8% |
トリソミー18 | 97.4% | 99.6% |
トリソミー13 | 87.5% | 99.9% |
②非侵襲性
侵襲とは生体を傷つけることを意味しています。NIPTは非侵襲性が高いので母体や胎児を傷つけません。10mlの採血で検査ができるため妊婦さんの体への影響も殆どありません。
ただし、検査を受ける時期はつわりが酷い時期でもありますので、体調が優れない方は無理しないようにしましょう。まれに採血をして貧血を起こす場合がありますので注意してください。
③早期に検査が可能
妊娠10週と早い時期から検査が可能です。NIPTは母体血液に含まれるセルフリーDNA(胎児の死んだ細胞)の割合の分布を基準値と比較して判定をします。検査に必要なDNAの割合が一定になるのが大体10週とされています。
「NIPT=万能」ではありません
全ての疾患が分かるわけではない
非常に検査精度の高いNIPTですが、残念ながら全ての異常を検査するものではありません。胎児・新生児に関する疾患は辞書の厚さ程の数があり、全てを網羅することは不可能です。ですが、その中で発生率が高い染色体異常を調べておくことで適切な妊娠管理が可能となるのです。
疑陽性・偽陰性の発生率はゼロではない
NIPTはスクリーニング検査(疾患の有無ではなく、疾患の疑いのある者を発見することを目的にした検査)に分類されます。陽性・陰性を判別するライン(カットオフ値)を設けているために、必ず疑陽性・偽陰性が存在します。
偽陰性の確率は極めて低く、陰性であれば大きな安心が得られますが、陽性結果の場合には解釈に注意する必要があります。
検査結果が陽性となった人のうち実際に陽性である割合(陽性的中率)は、割合を算出する際に使用した母集団の特徴(コーホートと言います)によって異なります。また、検査項目によって疑陽性の可能性が異なりますので、もしも陽性結果が出た場合は確定検査(羊水検査)を受けることを推奨しています。
検査結果が出ない場合がある
まれに「判定保留」という形で検査結果が出ない場合があります。当院で検査をした方で「判定保留」となった例をいくつか紹介します。
◆DNA不足
妊娠10週になりたてで採血をした場合、母体血液内の胎児の遺伝子成分が安定していないために検査に必要な量のDNAが不足することがあります。この場合は次の週に再検査をすることで結果が出ます。
◆検査機関側の検査機器の測定要件に適合しない【QCエラー】
過去にお一人だけ、再検査をしても結果が出なかった事例がありました。非常にまれなケースですが、血液も個人差がありますのでNIPTで結果が出ない場合があります。このような場合には羊水検査など他の検査をご案内しています。
検査結果を正しく理解しましょう
(1) 陽性結果
ここまでお話した通り、検査感度は検査機関毎に設定するカットオフ値により若干異なり、陽性的中率は算出した母集団の特徴(例えば母体年齢)で異なります。大きな不安を感じるかと思いますが、慌てて自己判断をせずきちんとカウンセリング、羊水検査を受けて、結果を理解した上で医師と相談して欲しいと思います。
尚、当院で羊水検査を受けた方の内容を見てみると、ダウン症(トリソミー21)は真正の陽性である場合が多いですが、それでも若干疑陽性であるパターンが見られました。
また主要トリソミー以外の常染色体の場合は疑陽性が多い印象です。これは元々の陽性の発生率自体が少ないためです。ただ、真正の陽性がないわけではありません。
過去に7番染色体の陽性結果が出て羊水検査を行ったところ、「モザイク(正常な染色体と、トリソミーの染色体が混在している状態)」が確定した事例がありました。殆どが流産となる常染色体でもモザイクの場合は出産にいたり、成長していくこともあります。
(2)陰性結果
陰性の場合は非常に高い確率で陰性が確定しますので、概ね安心して妊娠生活を過ごせると言っていいでしょう。ただし、先に説明した通り、疑陽性の確率はゼロにはなりません。
当院で検査を受けた方にも過去に1件偽陰性となったかたがいらっしゃいました。丁度カウンセリング件数が10,000件を超えたあたりでしたので、公開されている偽陰性の確率と同程度です。
最後に
今後もNIPTを含めた出生前診断を検討する方は増加して行くと想定されます。そして、検査後を支援する基盤も少しずつ整備されていくことでしょう。
健やかなマタニティライフを過ごし、安心して出産を迎えるために、検査を検討する際にはしっかりと検査についての理解を深め、パートナーと話し合い納得して申し込んで欲しいと思います。