赤ちゃんが出来て嬉しいはずなのに、イライラしたり急に悲しくなったりして感情のコントロールが出来ず辛いです。 マタニティブルーなのでしょうか?この状態はいつまで続きますか?(36歳 東京在住)
先日来院された方から質問をいただきました。今回は、マタニティブルーになる時期や過ごし方についてお話します。いつもと違う不安や辛さを感じるときは、ぜひ、パートナーやご家族にもこの記事を読んでもらってください。
マタニティブルーとは
正式名称は「マタニティブルーズ」と言い出産後に起こるものを指しますが、近年は一般的に、妊娠時期、出産後の不安症をまとめてマタニティブルーと言われることが多くなりました。
ここでは、一般的に言われるマタニティブルーという言葉と定義で解説します。
マタニティブルーはいつからいつまで?
- 妊娠初期~中期
- 産後1か月間
これらの時期が、最もマタニティブルーが起こりやすいと言われています。 産前、産後どちらでも起こるものと考えられていて、両方を経験したと言われる方もいます。
マタニティブルーが続く期間は、多くの場合3~4日程度、長期間でも2週間~3週間の一過性です。 ただし、感じ方には個人差があるため、発症時期や期間は一概には言えません。
精神的な不調は個人で全く感じ方も違うものです。
マタニティブルーは産後2週間までで落ち着くと言われていますが、ホルモンの変化が落ち着くまでの産後1年間は、マタニティブルーが起こる可能性があると考えても良いでしょう。
マタニティブルーの症状
メンタル面の不調
- 気持ちが落ち込む
- 不安感に襲われる
- 急に泣きたくなる、涙が出る(※「涙もろさ」は重要なサインとされています)
- イライラする
- 焦りを感じる
- 感情をコントロールできない
- 出産や育児に対して強い恐怖や不安を感じる
- 自己嫌悪感
自律神経系の不調
- 不眠
- 過食
- 拒食
- 倦怠感
- 動悸
- 息切れ
- 頭痛
自覚症状としてはこれらのものがありますが、全てが当てはまるわけではありません。
メンタル面だけでなく、不眠・倦怠感・頭痛など身体的な負担を感じるケースも多くあります。
マタニティブルーが起こる原因
マタニティブルーの原因として大きいものとして、産前産後の急激なホルモンバランスの変化があります。
気持ちのコントロールが難しくなるのには、ホルモンバランスの変化という原因があるのだと、理解することも大切です。
ホルモンの乱高下に加え、妊娠中は様々な不安もありますし、出産後は新生児のお世話や責任感などから、気持ちも身体も大きく負担を感じやすい時期です。
感情の波があっても、自信をなくしたり自分を責めないようにしていただきたいと思います。
妊娠初期、大きく変化するホルモン変化の1つとして、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)という胎盤の絨毛組織から生み出される妊娠した女性だけに作られるホルモンの推移を示します。
妊娠5、6週あたりから猛烈な勢いで上昇し、8~10週で分泌量のピークになり、「つわり」を起こす要因となります。
このように、妊娠するとお母さんのホルモンは大きく変化します。
また、産後は妊娠が成立してから増加が続くエストロゲンとプロゲステロンが一気に減少します。
出産による女性ホルモンの大きな変動の他、産褥期の不安定な身体で始まる新生児のお世話などでマタニティブルーが起こりやすくなります。
マタニティブルーかな?と思ったら
マタニティブルーはホルモン変動が落ち着くことで自然と改善されるため、生理現象とも言えます。そのため、一過性の場合は投薬などの治療は行わないことがほとんどです。
しかし、ホルモンが与える身体や精神的な影響は大きいことも事実です。 「赤ちゃんや家族のために頑張らなければ」と一人で抱え込まず、家族や周りの人に気持ちを伝えてみましょう。
もしかしたら、1度ではご自身の気持ちを話した相手に理解してもらえないこともあるかもしれません。
そのような時も自分を追い詰めずに、医療機関や自治体の保健センター、子育て世代包括支援センターに相談することをおすすめします。
同じ経験をした人や知識のある人から理解と共感をしてもらうことで、心が落ち着き、課題がクリアになるケースも多くあります。
自宅で辛いとき、泣きたくなったら涙を流して気持ちを開放しましょう。
いつも自分1人で何でも頑張ってきた方にとってはこれまでない経験かもしれませんが、ホルモン状態を考えると何もおかしいことではありません。
また、赤ちゃんのお世話で睡眠不足が続いてしまうようでしたら具体的にやってほしいことを家族に伝えてしっかり休息をとりましょう。
身体に無理がなければ気分転換になるような軽い運動もおすすめです。
マタニティブルーとは違う「産後うつ」には要注意
一般的にマタニティブルーは一過性のもので、多くの場合3~4日、長期間でも2~3週間で落ち着くことが多いものです。
しかし、産後1か月が経っても気持ちが落ち込んだり、攻撃的になったり、不安定さが落ち着かない場合は「うつ」状態の可能性があります。
かかりつけの医師や自治体の保健センター、子育て世代包括支援センターに相談しましょう。 また、家族からの声掛けや、産後の保健師の訪問でアドバイスがあれば耳を傾けてみてください。
少し衝撃的なお話になりますが、周産期のうつが悪化すると、既遂に至りやすい傾向で自死の方法をとることが報告されています。(Oates,2003)
下は東京都23区の妊産婦の異常死の実態調査の表です。
東京都23区の妊産婦の異常死の実態調査 (順天堂大学 竹田省、東京都監察医務院 引地和歌子、福永龍繁)より
例数がとても多いわけではありませんが、赤ちゃんを抱えて一人で悩み追い詰められてしまうことがある事実があると知り、可能な限り避けていただきたいです。
医療機関にかかって薬を処方されると母乳をあげられなくなってしまうという心配もあるかもしれませんが、投薬治療となる場合でも母乳に影響が少なくエビデンスが確立されている薬もちゃんとあります。
基本的に医師の指導により治療を進められると良いですが、自分でも安全かどうかを確認したいときは『母乳とくすりハンドブック』というものが発行されていますので、医師と相談してみましょう。
『母乳とくすりハンドブック』は2010年版がネットから無料で入手できます。
産後うつについては、世界的に活用されている『エジンバラ産後うつ病評価尺度』が公開されています。
ご自身、またはご家族で気になる様子があるときには活用しましょう。
10項目、30点満点(1項目0-3点評価)で評価します。9点を超える場合は医療機関等に相談してください。
さいごに
マタニティブルーも産後うつも、自分ではなかなか気が付かないケースもあります。
お母さんの笑顔が家族の笑顔につながります。 頑張りすぎていないか一度見つめ直してみましょう。